胆汁性下痢症(Bile Acid Diarrhea)について

胆汁性下痢症とは

胆汁に含まれる胆汁酸は脂質や脂溶性ビタミンの吸収に関与するだけではなく、殺菌・静菌作用などを介して腸内細菌叢への影響や、代謝、炎症をコントロールするシグナル分子として働くなどの作用があります。

胆汁酸は肝臓で合成され十二指腸から胆汁として分泌され、小腸で腸内細菌で脱抱合などの代謝を受けながら通過し回腸末端で95%が吸収され門脈を介して肝臓に運ばれ、再び胆汁中に分泌されるという腸肝循環を1日8~9サイクルぐらい繰り返しています。

この回腸末端での胆汁酸の再吸収がうまくいかない(BAM : Bile Acid Malabsorbtion)と、胆汁酸が大腸内に多く流入し、胆汁酸の大腸への影響として

  • 大腸上皮からの水分分泌増加(cAMP増加)
  • 消化管(大腸)蠕動亢進
  • 粘膜刺激による腹痛・ガス

などの作用を介して下痢が起こるとされています

この胆汁酸の大腸流入量が増加して下痢の原因となっている病態を胆汁性下痢症(Bile Acid Diarrhea)といいます。

過敏性腸症候群と診断されている患者さんの25~33%にBAMが関与していると推定されています(Aliment. Pharmacol. Ther. 2009, 30, 707–717. )

また、この胆汁酸の大腸への作用を下剤として使用しているのが、エロビキシバット(グーフィス®️)です(→コラム便秘の薬参照)

病型(臨床的分類)

1型 回腸の器質的障害

回腸末端切除(クローン病、腫瘍など)

放射性腸炎(照射部位が回腸末端にかかっており、再吸収の容量低下が原因)

2型 特発性胆汁性下痢症( primary BAD )

明らかな器質的疾患なし

FGF19の分泌低下が原因

下記、診断、検査の項目参照

3型 2次性胆汁性下痢症( secondary BAD )

  • 胆嚢摘出後
  • 膵疾患
  • SIBO
  • 乳糜漏

などが誘引

症状

  • 慢性の水様性下痢(特に朝~午前中)
  • 排便後のすっきり感がない
  • ガス・腹部膨満感
  • 食後数時間の腹痛→排便で改善
  • 食事(脂質)で悪化しやすい。

診断、検査

血中 7αC4(7α-hydroxy-4-chlesten-3-one)

高値の場合、胆汁酸過剰合成を示唆

糞便中胆汁酸測定との相関が高い

血中FGF19

FGF19は肝臓での胆汁酸合成を抑制するホルモン

低値でBADと関連

48時間糞便中胆汁酸測定

100g/日の高脂肪食を摂取したあと、48時間以内に排泄された便をすべて回収し、HPLCで便中の胆汁酸量を測定する検査法。日本では一般化していない。

SeHCAT( 75Se-homocholic acid taurine retention )試験

海外では実施可能だが日本では利用できないので、名前のご紹介だけになりますが、世界的には標準的な検査とされています。

治療

胆汁酸吸着薬(第一選択)

  • コレスチラミン(クエストラン®️) 散薬
  • コレスチミド(コレバイン®️)  錠剤

胆汁酸を腸管内で吸着し、不活化する。

脂質異常症の薬として使用されています。

1-4g/日を1-3分割して服用する

海外では一般的に使用されているが、日本では使用できない薬剤

コレセベラム:コレスチラミンより飲みやすく副作用が少ない

コレスチポル

診断的治療について

海外の文献では診断的治療は推奨されてはいませんが、標準検査が一般化されていない日本においては、診断的治療としてコレスチラミン、コレスチミドを投与してみて、反応を見ることで診断、治療を行っていることが多いのではないかと思います(当クリニックでもこの方針です)。

低脂肪食

脂質をエネルギー摂取全体の20%以下に抑える、あるいは40g/day程度に抑えることで腹痛や夜間の排便などの症状改善が得られることがあるようですが、排便頻度や便意促迫、腹部膨満、腹鳴などは改善できなかったという報告もあるようです。

参考文献

Marasco G, et al.,Pathophysiology and Clinical Management of Bile Acid Diarrhea, J Clin Med. 2022 May 30;11(11)

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