カンピロバクター腸炎
こんにちは、院長の中島です
腸炎には細菌性腸炎とウイルス性腸炎、薬剤性腸炎…いろいろあるのですが、今日は細菌性腸炎のなかのカンピロバクター腸炎についてお話します。
カンピロバクター腸炎とは?
名前の通り、カンピロバクターという細菌(Campirobacter jejuni)が原因の細菌性腸炎です。
カンピロバクター腸炎の症状
- 腹痛
- 下痢
- 血便
- 嘔気、嘔吐
などの消化器症状のほか、
- 発熱
- 頭痛
- 筋肉痛
- 末梢神経障害(ギランバレー症候群)
など消化器症状以外の症状を合併することもあります。
症状の中でも、命に関わる症状としてギランバレー症候群が挙げられます。
カンピロバクターはどこから来るの?
カンピロバクターという細菌はどうやって、ヒトの体の中に入り込むのでしょうか。
細菌性腸炎はだいたい、経口感染、糞口感染のことが多いです。
カンピロバクターは加熱不十分な肉類、特に生焼けの鶏肉(唐揚げの中が生とか、焼き鳥の生焼けとか)を食べることで発症することが多いと言われていますが、焼き肉の生焼けなどで発症することもあります。いわゆる食中毒菌のひとつということですね。
家庭で調理した鶏ハムとかローストビーフは加熱不十分になることもあり、要注意です。
美味しく食べられる火加減と生焼けの境がなかなか難しいところですよね。
発症を予防するためには、とにかく、よく焼いて食べれば大丈夫なのですが、注意しなければならないのは、生焼けの肉を食べるだけではなく、焼き肉のときは焼く前の生の肉を掴むトングと焼けたあと食べるときに掴むトング、箸を分けなければ、カンピロバクターやその他O-157などの腸管出血性大腸菌などが体内に入り込むことがあるということです。
また、調理するときは生の食材を取り扱うときに、よくまな板や包丁を洗うことで細菌の付着や繁殖を防ぐことができます。

その他、患者さんの糞便がトイレのノブや便器に付着、これを触った手をよく洗わず、体内に侵入するということもありえます。
患者さんのお世話をするときに糞便で汚染された下着などやリネンなどを取り扱う際にも注意が必要です。
トイレに行ったらよく手を洗う、というのは基本的な感染予防ですね。

カンピロバクター腸炎の診断
便の培養でカンピロバクターが検出されることによってカンピロバクター腸炎と診断できます。
便の培養には臨床検査会社に検体を提出してから数日を要するため、受診したその日には診断がつきません。
治療について
カンピロバクター腸炎だからといって、特別な治療法が必要というわけではありません
- 整腸剤
- 抗菌薬(必要があるときのみ)
- 腹痛に対する鎮痛薬
- 嘔気、嘔吐に対する制吐薬
など、胃腸炎に対する一般的な対処療法が基本的な治療法です。
カンピロバクター腸炎に点滴や抗菌薬は必要?
通常は経口薬による治療を行います。
点滴による治療は通常行いませんが、入院が必要になるぐらいぐったりしている場合は、経口摂取もできなくなっていることがあるので、水分補給の点滴の他に抗菌薬の点滴が考慮されることもあるかもしれませんが、外来で治療するときに点滴を考慮することはほぼないでしょう。
通常、腸炎は整腸剤で細菌やウイルスでかき乱された腸内細菌叢を整えれば、だいたい治るのですが、ときどき整腸剤だけでは改善できずに抗菌薬が必要になることもあります。
便の培養で検出されたカンピロバクターの抗菌薬の感受性がわかっているときは、感受性を考慮して抗菌薬を投与します。最近はキノロン耐性のカンピロバクターの増加が問題となっており、第一選択薬はマクロライド系抗菌薬とされていますが、経験的にはマクロライド系抗生剤以外でも治癒します。
あくまで経験ですが、整腸剤だけでなかなか治らない腸炎は、カンピロバクター腸炎をはじめとする名前のついた細菌性腸炎だったりすることがよくあります。
最初から抗菌薬を投与すればいいかというと、耐性菌の出現や、抗菌薬起因性腸炎の発症などの問題もあるので、当院の治療方針では抗菌薬は本当に必要なときだけ、短期間に留めておくのがよいと考えています。
患者さんから抗菌薬処方の希望があることもありますが、希望されたからといって処方するわけにはいかないので、患者さんの状態を見て必要性がなければ、抗菌薬の処方はお断りしています。