急性感染性胃腸炎について

急性感染性胃腸炎には原因微生物別に細菌性とウイルス性があります

急性感染性胃腸炎の潜伏期

感染性胃腸炎は原因微生物(細菌、ウイルス)が体内(消化管内)に入って、すぐに発症するわけではありません。原因微生物によって潜伏期は異なりますが、1日~数日の潜伏期を経て発症することが多いとされています。

例外として下記の細菌が産生する毒素が原因となる食中毒による胃腸炎などは経過が早い場合があります。

黄色ブドウ球菌

黄色ブドウ球菌性腸炎は食品に付着して増殖した黄色ブドウ球菌の毒素による胃腸炎で原因となる食品を食べてから最短3時間ぐらいで嘔吐、下痢などを発症することがあります。

注)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による感染性腸炎とは異なる病態です

セレウス菌

嘔吐型(セレウス菌による嘔吐毒による)は原因食材の喫食後30分~5時間ぐらいで発症し、嘔吐が主な症状

下痢型(セレウス菌による下痢毒による)は原因食材の喫食後6~15時間ぐらいで発症し、下痢が主な症状

細菌性(胃)腸炎(原因菌の明らかな細菌性腸炎(一般的な感染症))

腸管出血性大腸菌性腸炎(3類感染症)

O-157が有名ですが他にもいろいろな腸管出血性大腸菌があります。

O-***というのは血清型という腸管出血性大腸菌の分類で、腸管出血性大腸菌性腸炎を発症しうる大腸菌はベロ毒素と呼ばれる毒素を産生する血清型の大腸菌群です。

ときに溶血性尿毒症症候群(HUS)を合併し、重篤化することがあります。

カンピロバクター腸炎

加熱不十分な肉類(鶏肉など)を食べたときに発症することが多く、まれにギランバレー症候群という神経麻痺を合併することがあります。

エルシニア腸炎

回盲部(小腸の終端と大腸のつなぎ目の周囲)を中心にした腸炎で腹痛の場所から虫垂炎との鑑別が難しいこともあります。回盲部周囲のリンパ節腫大を伴うことがあり、腹部超音波検査で回盲部リンパ節腫大が見えることがあり、診断の一助のなることがあります。

サルモネラ腸炎(赤痢やチフスを除く)

食品を介して消化管内に病原微生物が入る以外に、ミドリガメなどのペットから感染することもあります。

ウェルシュ腸炎

温めなおした、カレーやおでんなどの煮物を食べたあとの下痢の場合、ウェルシュ菌が原因ということがあります。

冬などに、カレーやおでんなどの煮物を作ってそのまま室温で放置した場合など、食品の中でウェルシュ菌が増幅することがあります。

食中毒を起こすウェルシュ菌は芽胞型で加熱しても死滅しないため、調理後に食品の中で増殖させないことが重要です。

特殊な細菌性腸炎(輸入感染症)

上記以外にも

コレラ(3類感染症)や細菌性赤痢(3類感染症)、腸チフス、パラチフス(3類感染症)などの特殊な感染症がありますが、これらは輸入感染症であることが多く、専門医療機関(市立札幌病院 感染症内科など)での診療をおすすめします。

海外旅行から帰国後に下痢を発症した場合はまず、専門医療機関(市立札幌病院 感染症内科など)にお問い合わせください。

ウイルス性胃腸炎

ノロウイルス性胃腸炎

生牡蠣を食べたあとに発症することがあります。

潜伏期は1~2日ぐらいで高熱と、激しい、下痢、嘔吐を伴うことが特徴です。

ロタウイルス

子供に多い胃腸炎ですが、大人も罹患することがあります

胆汁流出障害により白っぽい便になることが特徴です。

アデノウイルス

アデノウイルスが原因の感染症には呼吸器感染症や結膜炎など多彩な症状がありますが、胃腸炎の原因となることがあります。

他のウイルス性胃腸炎

原因のはっきりしないウイルス性腸炎も多く、他に、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザでも下痢症状を伴うことがあります。

急性胃腸炎の治療

もとより、ウイルス性胃腸炎には抗菌薬(抗生物質)は無効ですが、細菌性腸炎も抗菌薬が必須というわけではなく、大体は整腸剤だけで治ってしまいます

下痢がひどいときに止痢薬(下痢止め)を服用すると、かえって腸内で原因微生物の増殖を助長することがあるため、おすすめできません。

基本的には下痢をとめず、原因菌によって乱れた腸内細菌叢を整腸剤で整えて、症状が落ち着くのを待つのが一般的な治療です。

どうしても治らないときに便培養を確認して抗菌薬による治療を行います。

抗菌薬は不用意に投与すると、かえって腸内細菌叢の乱れを生じさせてしまったり、菌交代症といって、抗生剤の効きにくい菌が繁殖したりする原因になりますので、必要最低限の投与量、投与期間で治療するのが望ましいと考えられています。

消化器内科

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