食道癌
疫学
少し古いデータになりますが
2018年の集計では食道癌と診断されたのは
男性 21353人 女性 4565人
全癌 男 558874(3.8% 8位) 女 421964(1.1% 14位) 総計 980838(2.6%)
と男性に多い病気です
2020年の集計で食道癌で死亡したのは
男性 8978人 女性 2003人
全癌 男 220989(4.1% 9位) 女 157396(1.3% 13位) 総計 378385(2.9%)
(がんの統計2022(公益財団法人 がん研究振興財団編)より)
悪性腫瘍のなかでは少ない方です。
食道がんのリスクファクター
食道がんになりやすい人とはどんな人でしょう?
リスクファクター(危険因子)というものがあり、食道がんのリスクファクターは飲酒と喫煙です。
- 浴びるほどアルコールを飲む、あるいは度数の強いアルコールをそのままロックで飲むのが好き
- タバコも、紙タバコで缶ピースで1日20本も30本も吸う
というような人は食道がんのリスクが高いといえます
また、飲酒のリスクのなかでも飲むとすぐ真っ赤になってしまう人はアルコールを分解してできるアルデヒドを分解するアルデヒド脱水素酵素(ALDH)という酵素の活性が弱いからです。この酵素の活性がもともと弱い体質(遺伝子)の人は食道がんリスクが高いと言われています。
「もともとすぐ真っ赤になっていたけど、いまは鍛えてある程度アルコールも飲めるようになった」という人がいるかもしれませんが、そういう人こそ食道がんリスクが高いため、もともと飲めないのであれば、無理して飲まない、禁酒するぐらいにしたほうが良いでしょう。
食道癌で気をつけることは、リスクファクター(飲酒、喫煙)が共通することから、頭頸部の咽喉頭癌の合併が多いことです。なので、食道癌を見つけたら、咽喉頭癌がないか、逆に咽喉頭癌を見つけたら食道癌がないかを調べます。
食道癌の症状
症状としては早期の表在癌の場合はあまり症状が出にくいですが、進行すると
- 熱いものを食べるとしみる
- 食べ物が通りにくい
- 声がかすれる(反回神経麻痺)
などの症状が出ます。
症状の出にくい早期癌を発見するためには定期的な内視鏡検査を受けることが大事です。
食道がんの進行度
癌の進行度にはステージと呼ばれる段階があります
食道がん癌取扱い規約によると
腫瘍本体の進展度(T因子)
リンパ節転移(N因子)
遠隔転移の有無(M因子)
によってステージが決まります。
ステージ0(ゼロ)が最も進行が軽く、ステージ IVが最も進行した状態になります
早期癌と表在癌
早期癌の定義とステージはやや異なりますが一般的に早期癌はステージ0の粘膜内に癌がとどまり、リンパ節転移がない状態と考えられます。
食道の構造は表面の粘膜から粘膜下層、固有筋層、外膜とミルフィーユのような層構造になっているのですが、食道がんでは粘膜から発生し、大きくなると粘膜を超えて深層(粘膜下層→固有筋層→外膜)に広がっていきます。これがT因子で、腫瘍の広がりを考える上で、食道がんがどの層まで到達しているかでT因子の進行度が決まってきます。
このうち、食道がんが
粘膜内にとどまっているものを早期食道がん
粘膜下層までしか拡大していないものを表在癌
それより深い層まで進行したものを進行がんと
定義されています。
胃癌や大腸癌と異なり、食道がんは粘膜下層まで浸潤してしまうとリンパ節転移の頻度が上昇しますので、胃癌や大腸癌の早期癌とは考え方が異なります。
検査
食道癌を見つけるための検査には
バリウム検査
内視鏡検査
があります
バリウム検査は本来、平らで凹凸などが殆どない粘膜面に凹凸が出たり、粘膜粗像が見えたりすることで異常と判断できますが、食道癌で凹凸不整が明らかに見えるようであれば、ある程度進行した癌であることが予想できるため、低侵襲な内視鏡治療の適応になることは少ないと考えられます。
内視鏡検査は、通常光で直接粘膜面を観察する他、NBI(Nallow Band Imaging)、日本語訳で狭帯域光観察と呼ばれる特殊光で観察することで、食道粘膜の明らかな変形をきたす前の粘膜内癌、表在癌を発見することができます。
食道表在癌のうち、粘膜内癌(粘膜内にのみ癌が存在する場合)はリンパ節転移がほとんどないとされているため、内視鏡治療の適応になります。
どんな癌でも早期に発見することで体への負担が少ない治療で完治する可能性が高くなります
実際のところ、内視鏡で治療できる癌は内視鏡でしか見つけられないとも考えられます。
食道癌と診断されたあとには粘膜面の深達度や進行度を評価するための検査として
超音波内視鏡検査(胃カメラの先端に小さな超音波装置がついており、超音波で粘膜の層構造を観察することができます)、あるいは、通常の内視鏡検査に加えて超音波プローブという超音波装置を鉗子口からいれて観察しても粘膜の層構造を観察することができます。
特殊光(NBIなど)観察を含む拡大内視鏡検査も食道癌の精密検査として行われます。
リンパ節や他臓器への転移、食道近傍の臓器への浸潤などの評価目的にCT、MRI、PET
などの検査があります。
これらの検査を経て、癌の進行度(Stage)を決定し治療方針が決まります。
治療
食道がんの治療には
- 内視鏡治療
- 手術
- 化学療法(抗がん剤)
- 放射線治療
があります。
Stageによってこれらの治療を組み合わせることもあります。
治療方針はStageや治療する医療機関の方針と患者さんのご意向などを考慮して決定されますので、様々なパターンがあり複雑になりますので、今回のお話はここまでにします。